2019.02.22
インフラ系エンジニアとして成長するプロセスの中で、LinuCの学習はメリットという言葉以上にとても意義がある
株式会社クロスパワー
代表取締役
大江 龍介(おおえ りゅうすけ)さん
目次
需要が高まり続けるLinuxと慢性化する技術者不足
2006年に設立し、システムエンジニアリングサービス(SES)からスタートした当社は、現在、サーバーインフラ構築・運用、アプリケーション開発、AWSなどを主力技術として、
① 派遣委託でのお客様先での開発・構築といったSES
② AWS環境を中心としたインフラ・アプリ開発をワンストップで対応するクラウドインテグレーターとしてのサービスの提供
③ IT業界の未経験者をターゲットにLinuxをはじめとするインフラ系の技術教育を有料で提供する教育サービス「寺子屋IT ライセンス」の運営
など、大きく3つの事業形態でテクニカルサービスを展開しています。これらのサービスにおいて、いまやLinux を利用することなくプロジェクトが遂行されることはほとんどありません。
2000年代前半ごろまでは、企業向けシステムはUNIX系OSの全盛期でしたが、Linuxの普及とともにそのシェアはだいぶ減り、現在はネットワークやセキュリティの分野で優れた安定性を持つLinux がプロジェクトの様々なシーンで活用されています。
Windows 環境のみで行われるプロジェクトもないわけではありませんが、少なくとも当社が従事しているプロジェクトでは、Linux を筆頭に、PostgreSQL、MySQL、Zabbixなど多様な環境に触れる機会が多くあります。また、AWSに関してもLinux を搭載したインスタンスを選択することも頻繁です。
企業向けでは、Linuxディストリビューション「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」がかなり普及しており、また、オープンソースでサポートの対象ではありませんが、RHELのクローンOS「CentOS ( Community ENTerprise Operating System )」も実際のビジネスで少なからず使われています。
しかし、Linux の需要が非常に高まる一方で、ソフトウェア業界においては技術者の人材不足が慢性化し、経験豊富な技術者を得ることはかなり困難になってきています。事業を拡大していく上で、当社が抱える課題もそこにありました。
即戦力となる技術者育成のための独自のカリキュラムを開発
この慢性化する技術者不足に対して当社が選択したのは、当社独自のカリキュラムを構築して新人や未経験者の育成に注力することでした。
当社のようなビジネスサイズのソフトウェア企業の場合、社員教育に本気で取り組んでいる企業は意外と少ないのが実態だと思います。そこをあえて推進しようと決断したのは、私が本当の意味での雇用貢献は人材を育てることにあるととらえたからです。また外部の教育機関に頼らず、独自にカリキュラムを構築したのは、外部機関に対してコストと品質に不満を感じていたからでした。
SESからスタートアップし、設立当初は外部の教育機関を利用していました。しかし、当時のIT系教育機関は、セミナーや教材、試験費用などを合わせると、どれも非常に高額なものばかりでした。
しかも最悪の場合、ビデオ講義を見せられるだけのケースがあり、品質の面で疑問を感じるものも少なくありませんでした。なかには「10日間で資格が取得できる」ことを謳うものもありましたが、どんなに良い講師の講義を受けて資格を取っても、資格取得のための教育だけでは実践で役に立ちません。
その様な講義で学べるのはあくまでも理論だけなので、実践・実務で使えるかどうかはまた別の問題です。ほんとうに現場で通用する力を身につけてもらうためには、実践と理論を重ねることが必要でした。そこで当社は、即戦力育成のためのより効率的・実践的な技術教育を施すことを目的とした独自のカリキュラムを作ることにしたのです。
LinuC はインフラ系SEとして活躍してもらうための必須資格
当社のエンジニアの約3割がJavaを中心とした業務用システムのプログラムを行う「アプリケーションエンジニア」で、7割がサーバーインフラ構築・運用を担当する「インフラ・基盤エンジニア」です。
インフラについては、さらに「オンプレミス」と「クラウド」に分類できますが、当社ではそれらを合わせて「インフラ系エンジニア」としています。我々がまず行ったのは、これらインフラ系エンジニアに、必ずLinuCを取得するよう義務づけることでした。
当社では、「LinuC の知識がある」ことを証明するLinuC の取得は、インフラ系エンジニアにとって必須資格だと考えています。とくに新人SE は、そのままでは顧客に信頼されません。実際、当社の社内外で活躍してもらっている新卒、第二新卒で入社したインフラ系のメンバーは、入社前にLinux の知識がないものが大半です。
しかし、彼らがLinuxOS の理解と付帯する研修を通じて、実践と掛け合わせた形で LinuC を取得すれば、プロジェクトで通用する力と資格という対外的な2つの証明を得られます。これが経験の浅い者にとっては、とても大きな財産となるのです。
また、インフラ系エンジニアの教育においてLinuC を活用することは、未経験の技術者に対して、商用のUNIX OS(AIX やSolaris など)にも対応しやすくなる技術を身につけさせることにもつながります。その意味でも基礎力となるLinuCレベル1の取得は、インフラ系エンジニアとして活躍してもらうためにはたいへん有効だと判断しています。
さらに当社の技術者教育では、LinuC の取得とそれを通した理論の習得だけでなく、実践力を身につけるために実機に触れながらLinuxを使いサーバのさまざまな環境を構築させています。実際に現場で技術者として活躍している現役社員の指導のもと、これらのトレーニングを積むことで、研修内容はクオリティが格段に向上し、LinuC の取得と同時にプロジェクトにとって有益な人材を育てることができるのです。
社員教育を基に生まれた「寺子屋IT ライセンス」
社内の技術者教育も軌道に乗ってきたある日、私は取引先の某企業のプロジェクトマネージャーの方に「LinuCを取得した後サーバを構築させ、+アルファの研修を行ったならば、その人材をプロジェクトで使ってくれますか?」と尋ねました。これに対して返ってきたのが「ぜひ使いたい」という答えでした。即戦力として、実践・実務で使える技術者は常に必要とされているのだと実感した瞬間でした。
これがきっかけとなり、当社の社員教育を基にしたカリキュラムによって即戦力に近いかたちで技術者を育成し、インフラエンジニアとして活躍してもらうというスキームが出来上がりました。それを具現化したのが、2012年にスタートした「寺子屋IT ライセンス」です。
「寺子屋IT ライセンス」は、当社の社員教育カリキュラムを社外の法人および個人にも有料で提供し、IT業界の未経験者をターゲットにLinuxをはじめとするインフラ系の技術を習得してもらうための技術教育サービスです。
インフラ系エンジニアを対象とするライセンスは、LinuC の他にもCCNA ( Cisco Certified Network Associate ) やMCP ( マイクロソフト認定プロフェッショナル ) などがありますが、今、圧倒的にニーズが高いのはLinuCをはじめとするLinux系のライセンス です。
CCNAは、パブリッククラウドやプライベートクラウドにかかわらず、ネットワークエンジニアがネットワークを構築する機会が減ってきていることが背景にあります。そのため業界全体がどうしてもサーバ寄りになり、アウトソーシングのSESという視点ではCCNAのニーズが低下している感がいなめません。
またMCPについては、いまだマイクロソフトの環境は根強くありますが、金融・官公庁等で使われるようなクリティカルなシステムになればなるほど、Linuxが採用されるケースが少なからずあることがあげられます。
さらに今の時代、クラウドは外せません。社内の人事システムや会計システムであれば、Windowsサーバを提供されるケースもありますが、クラウドやWebで提供されるサービスでは、その基盤にLinuxが採用されるケースが圧倒的に多いのが現状です。
最近は、パブリック、プライベートかかわらず、クラウド環境構築のニーズが高まっていますが、VMware や Openstack、AWS などと密接にかかわったLinux 環境の構築は大変なニーズがあります。オープン系・クラウド系のインフラエンジニアは特にそうですが、Linux に全く触らないで業務を遂行する方は、かなり少ないのではないでしょうか。
「寺子屋IT ライセンス」では、社内の技術者教育と同様に参加者全員にLinuCを取得してもらいますが、あくまでも実務で通用する技術者の育成が目的ですので、LinuC の取得だけでなく、Linuxサーバの構築等を通じて実際にLinuxに触れながら習得するなど、実践的な学習が特徴となっています。
スタートアップした企業や志があって教育できる人員がいないが教育投資はしたいと考えている企業であけば、ぜひご利用いただければと思っています。また当社では、『Linuxサーバ構築体験コース』も実施しておりますので、是非ご来校いただいてLinux を肌で感じてみるのもいいかもしれません。
技術者としての自信が得られ、モチベーションを向上させてくれるLinuC
当社も昔は、新人にシステム監視などに従事してもらうことがありました。必要な業務領域なので対応はしましたが、本音をいえば早くインフラ設計・構築力を身につけてほしいと考えていました。なぜなら、当社の社員にはレイヤーの高いレベルで業務に従事して欲しいと強く願っていたからです。
そのプロセスの中で、LinuCの学習はメリットという言葉以上にとても意義があることです。また、新人が多い当社においてもLinuC は、取得後に技術者としての自信が得られ、構築をしてみたいというモチベーションを向上させてくれる有効な選択肢でもあります。そうした意味で、今後、LinuCの取得を目指すエンジニアや、Linux を学ぼうとされている方、IT 業界へチャレンジしたい方へ勧めたいのは、やはりLinuC の取得です。
日本市場向けに作られているLinuC は、学びやすくかつエンジニアとしての知識を整理する・身に着けるといった角度からみても、とても有効なライセンスの一つです。しかも、アプリケーション開発、インフラエンジニア、クラウドエンジニア、いずれにとってもLinux なしで業務を遂行することがほとんどなくなった今、逆により深く求められる環境の一つだと思います。
現在、当社の入社研修は、内定者研修を含めると500時間にも達します。日数でいうと約3ヶ月ですから、かなり手厚いといえるでしょう。その中で、インフラ系エンジニアのカリキュラムにはLinuCレベル1取得が組込まれており、ライセンスの取得およびサーバ構築研修には約160時間が割かれています。
当社が教育に力をいれるのは、そこで資格取得以上に大切なこととして、先輩社員が後輩社員に対して指導する文化を醸成させていきたいと考えているからです。当社にとっては、後進の育成も徒弟も大切な仕事です。その意味では、指導することだけでなく「伝える」ことも意識してくれる方を求めています。
関連記事