クラウド時代のエンジニアに求められるスキルセット

クラウド時代においても「Linux」のスキルが求められると言います。それはなぜでしょうか?

最終更新日:2021年11月22日

その時々の技術的なトレンドに応じてオープンソースソフトウェア(OSS)の中でも求められる技術は変わっていきます。今、注目をされている技術は「Kubernetes」と言えそうですが、実は「Linux」を扱えるスキルを身につけていることが求められています。
それは一体なぜなのでしょうか?


「The 2021 Open Source Jobs Report」とは?

The Linux Foundation(以下、LF)が2021年9月20日に公開した「The 2021 Open Source Jobs Report」の中から求められるスキルセットについて、ご紹介したいと思います。

このレポートは、オープンソース人材の採用やトレーニングの動向に関する年次報告書の最新版で、今回が9回目になります。2021年6月8日から7月19日にかけて、世界各国の大企業や中小企業、政府機関、人材派遣会社の200人以上の採用マネジャーと、世界各国の750人以上のオープンソースプロフェッショナルを対象として、人材採用に関するニーズ等について調査を行ったもので、地域別にみると、47%が北米に本社を置き、14%がアジア(中国、インド、日本以外)、8%が中国、7%がヨーロッパ、6%がアフリカ、6%がオーストラリア/ニュージーランド、5%がインド、2%がメキシコ/中央アメリカ、2%が日本、1%が南アメリカ、1%が中東、その他の地域はそれぞれ1%未満になります。北米での傾向を表している結果になっている部分が多くなっているように思いますが、技術的な問題は地域に依存するとは考えにくいので、日本人にとっても有益なレポートになっています。

今回のレポートでは、オープンソースのスキルを持つことの重要性がこれまで以上に強調されています。また、97%の採用担当者が何らかの資格を保有する技術者を優先すると回答しています。有効な資格を持つ技術者は、最新の技術的進歩に精通している可能性が高く、組織が変化を効率的かつ効果的に管理するために必要なスキルを確保するのに役立つと考えられているということかもしれません。

ホットなスキルセット

ここからは、このレポートで記述されている、「ホットなスキルセット」について、ご紹介したいと思います。

今回、初めてクラウドネイティブテクノロジーがLinuxを上回りました(図1)。クラウドネイティブなスキルに対する需要の高まりは、LFが実施しているトレーニングや認定試験の結果にも表れているようで、2020年上半期の、Kubernetes認定試験の受験者は、2019年に比べて4倍になりました。さらに、2021年の上半期にはこれがさらに43%増加しています。2019年上半期から2021年にかけて、Kubernetesの認定試験の重要が4.5倍になっています。さらに、Kubernetesの貢献者も過去3年間で88%も増えており(図2)、Kubernetesがもっともホットなスキルになってきたことは明らかです。

図1.採用者が重要視する技術

図2.Kubernetesの貢献者数推移

しかしながら、クラウドネイティブテクノロジーを身につけるためには、基本的なLinuxのスキルが必要不可欠であることには変わりません。Linuxに精通していることがクラウド人材を探す際の暗黙の了解になっている可能性があります。

なぜクラウドネイティブテクノロジーに注目?

では、なぜクラウドネイティブテクノロジーに注目が集まっているのでしょうか?

その要因として考えられるのは、COVID-19の影響で企業がクラウド移行を含むデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していることが挙げられます。クラウドを活用することで、短期間にサービスを導入したり、サービスを改善するための手法としてDevOpsを多くの企業が活用しています。システムのリリース間隔が4半期から継続的なデプロイメント(CI/CD)へと移行させるために、この3年間でDevOpsの使用率が50%以上増加しています。また、クラウドの特性を生かすためにマイクロサービスやコンテナの技術を活用することが必要になっています。すなわち、DXを推進するためにはOSSの有効活用が必須であるということになります。

また、クラウドを構成する技術は、Linuxやネットワークなどのインフラ技術に依存していますし、セキュリティもクラウド環境を管理するためには、欠かせない技術要素なので、Linuxの基本的な知識が必要となる部分です。そのような観点からもクラウドネイティブな技術の背景にあるLinuxの技術を身につけることは、とても有用なことだと言えます。

しかしながら、クラウド導入は、まだまだピークに達しているわけではありませんから、クラウド導入に関連する技術を持った技術者は、これからも需要が当分続くのではないかと思います。

人材育成の必要性について

また、COVID-19は、企業が人材の流出を防ぐ方法を変えました。日本では、あまり一般的なことではないかもしれませんが、今回のレポートでは初めて、人材の流出を防ぐ手段として金銭的なインセンティブが最も一般的に用いられており、39%の企業がオープンソースの人材に他のビジネス分野よりも多くの給与を与えていることがわかりました。さらに、38%がオープンソース担当者のボーナスを増やし、25%がインセンティブとしてトレーニングや資格取得の機会を提供しています。トレーニングが不可欠なのは、採用担当者の36%がオープンソース人材の確保が困難であるからと回答しています。これは、昨年の26%から増加しており、2018年には21%に過ぎず、3年間で71%増加しており、スキルギャップと人材不足の拡大を示唆しています。

このようにオープンソース人材が不足しているという現状に対して、既存の従業員のスキルギャップを解消するためにトレーニングを増やしているようです。従来は、適切な人材が現れるまで採用を遅らせるという手法をとっていたようですが、この「適切な人材」が世の中に存在しないことに気が付いた採用担当者がこのスキルギャップを解消するための代替策としてトレーニングの機会を提供するようになりました。人材育成という考え方が少なくともオープンソースの世界では、世界中で広がりつつあるようです。

過去12ヶ月でLFのe-Learningコースの受講者が2倍に増えているようで、クラウドネイティブに対応するためや既存のチームのスキルアップのためにもこのようなトレーニング機会を提供することがこれからの企業に求められることかもしれません。

まとめ

LFが発行した「The 2021 Open Source Jobs Report」を参考に、技術者に求められる「ホットなスキルセット」について、ご紹介してきましたが、技術者に求められるのは、技術だけではなく、技術の周辺にあるライセンスや知的財産権に関する知識を持つことで、オープンソースを活用するためのリスクを軽減しなければいけません。スキルセットの中にこのような項目が今後入るようにしていく必要があると思います。

筆者紹介
吉田 行男 氏

吉田 行男 氏

2000年頃からメーカー系SIerにて、Linux/OSSのビジネス推進や技術検証を実施するなどOSS全般の活用を目指したビジネスの立ち上げに従事。また、社内のみならず、講演執筆活動を社外でも積極的にOSSの普及活動を実施してきた。2019年より独立し、オープンソースの活用支援やコンプライアンス管理のコンサルテーションを実施している。

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