仮想化とは?|クラウド時代の土台を支える技術

クラウドネイティブやサーバーレスなど、最新アーキテクチャを実現するのが仮想化技術

最終更新日:2022年02月03日

システム開発を手がけるエンジニアだけでなく、IT に関わる人ならば、「仮想化」というキーワードを聞かない日はないでしょう。仮想化とは、1台の物理サーバー上に複数の論理サーバーを起ち上げ、さまざまなシステムやサービスを実現する画期的な技術です。またWebサービスなどでは、アクセスの増減に合わせて自在に論理サーバーの数をスケールできるため、ネットビジネスやショッピングには不可欠のテクノロジーになっています。今回は、仮想化の基本知識や具体的なメリット、そして Linux との関連について、サイオステクノロジー株式会社の武井 宜行さんに解説していただきました。


いまさら聞けない「仮想化」の基本を知る

そもそも仮想化って何だろう?

仮想化とは、一言で言うと「サーバーの中でサーバーを動かすことができる技術」です。これまでは、「1台のサーバーには1つの OS」が“常識” でした。しかし仮想化技術を用いれば、1台の物理サーバーの上に、それぞれのOSを持った「論理サーバー」をいくつも動かすことができるのです。このため限られた台数のサーバーで、複数のシステムやサービスを提供できるようになります。

仮想化にはどんなメリットがあるの?

エンジニアに関して言えば、もっとも大きいのは、物理サーバーの台数を劇的に減らせる結果、管理がシンプルになりコストが抑えられることです。従来の、一つのシステムごとに1台の物理サーバーという構成では、構築にも運用にも膨大な工数がかかります。何台ものサーバーやネットワーク機器のコストも、大きな負担です。これを仮想化すれば、どれだけの省力化・省コスト化になるでしょうか。エンジニアにとっても、システムを利用する企業にとっても、仮想化がもたらすメリットは非常に大きなものだとわかりますね。

また物理的な機器を用意しなくて済むということは、環境保全の活動にも通ずるところがあると思っています。

仮想化技術が、各方面から注目されている理由

仮想化は最先端のクラウドを支える土台の技術

ここ数年、Microsoft AzureやAWS(Amazon Web Services)に代表される「パブリッククラウド」の利用が急速に拡がっています。クラウドの世界では、クラウドネイティブやサーバーレスといった考え方が重要になりますが、それらを実装する重要なバックエンドの技術が仮想化なのです。具体的な例などは、この後でご紹介しますが、まずは「仮想化はクラウドの土台になる技術」という点を、しっかり押さえておいてください。

クラウドのユーザーにも仮想化は大きなメリット

仮想化の恩恵を受けるのは、エンジニアだけではありません。仮想化の大きな特徴の一つに、「スケールが容易」というのがあります。たとえばチケットの予約Web サイトなどでは、人気イベントの発売時は、数万人が一度にアクセスして猛烈な負荷がかかります。

ここに仮想化を使えば、アクセス殺到時には即座に何十台もの仮想サーバーを起ち上げ(スケールアウト)、終わればふだんの台数に戻せる(スケールイン)。この結果、企業はふだんから何十台もサーバーを用意しておかなくても、予約サービスを利用するお客さんたちに、常に快適な利用環境を提供できるようになります。

さまざまなWeb サービスが利用される現代にあって、仮想化はクラウドサービスの顧客満足度を実現する上でも重要なテクノロジーなのです。

仮想化を学ぶエンジニアが知っておきたいポイントは?

仮想化を理解しないとクラウドを使いこなせない

「仮想化はクラウドの土台になる技術」というのを、もう少し詳しく見ていきます。

図は、一般的なパブリッククラウドのアーキテクチャです。クラウドサービスのユーザーは、一番上の「クラウド管理ポータル」、つまりWeb ブラウザなどの操作画面を見ています。もちろんユーザーからシステムの内部は見えませんが、この図では、すべての機能の土台部分には仮想マシンのプールがあることがわかります。つまりシステム全体は一見「サーバーレス」のように見えても、サービスの根底を支えているのは無数の仮想マシンなのです。

とはいえ、実際にはそうしたことを意識しなくても、エンジニアとしてサービスそのものを扱うことは可能です。しかしちょっと凝った構成を作り込むとか、機能をカスタマイズするとなると、仮想マシンという概念を正確に理解していなくては手も足も出ません。クラウドのエキスパートになるには、やはり仮想化の知識は必須の要件になってくるのです。

一般的なハイブリッドクラウドのアーキテクチャ

「仮想化技術を生かせる設計」をできるようになろう

では仮想化技術が使えるエンジニアには、どんなスキルが求められてくるのでしょうか。それは「スケールした時にも、確実かつ正確に動くアプリケーション設計」です。

従来のように1台の物理サーバーに1つの OS なら、完成時にきちんと動作が確認できれば問題はありません。しかし仮想化では、利用状況に合わせてサーバーの台数が増減(スケール)します。その場合も常に変わらない動作が保証できるか。ここが仮想化のアプリケーション設計で、最も重要な課題になってくるのです。

またログ運用も、「1台1OS」ならばその物理マシンの内部のハードディスクにログを保存するのが一般的でしたが、仮想化では随時台数が変化するため、できるだけサーバーの内部にデータをためない、いわゆる「ステートレス」な設計が要求されるようになります。

これら一連の「仮想化の作法」をマスターすることが、仮想化のメリットを活かしたアプリケーション開発につながります。しかし、こうした仮想化の「全体設計」ができるエンジニアは、現在も圧倒的に不足しています。もしあなたがそのスキルを身につけることができれば、将来のキャリアアップに有利なのは言うまでもありません。

仮想化技術とLinuxの「切っても切れない関係」とは?

仮想化マシンの大部分がLinuxで動いているという事実

仮想化技術とLinux は、実は非常に密接な関係にあります。たとえば、世の中の主要なパブリッククラウドを支えているのはLinuxだというのをご存じでしょうか。AWSの仮想マシンのほぼ100%はLinux で動いています。またMicrosoft Azureも、内部の仮想マシンはすでにWindows よりもLinux の方が多いと言われています。これだけ見ても、仮想化マシンのOS としてLinux は非常に重要な地位を占めており、仮想化を手がける上で欠かせないプラットフォームであることがわかります。

Linux が現代のIT エンジニアの必須技術であるワケ

では、なぜ Linuxが仮想化で多く用いられるのでしょうか。仮想化の根底には、たとえばハードウェアリソースの抽象化といった仮想化ならではの技術に加え、ネットワークやハードディスク、さらにはCPU などITシステムを構築するあらゆる仕組みが含まれています。そして Linux には、これらを網羅する多彩な技術要素が提供されているのです。

一つ例を挙げると、Linux の中には KVM (Kernel-based Virtual Machine) と呼ばれる仮想マシンがあります。この KVM を詳しく勉強して究めていけば、仮想化技術全体を理解できると言っても過言ではありません。

仮想化マスターへの最短距離はLinuC認定の取得

仮想化の技術要素を網羅しているのがLinuxならば、いかに効率的にLinuxを学ぶかが、仮想化のスキルを習得する重要なカギになります。そうした意味で、LinuC の認定取得は仮想化を学ぶための最短距離だと言えるでしょう。LinuCではLinuxシステムの基本操作や理論から、エキスパートに求められる最高レベルの技術まで、段階に応じた3つの認定レベルが設けられています。その初歩から中級であるLinuCレベル1~2では、仮想化技術やクラウドの基本的な概念の理解と操作手順に加え、KVM やDockerコンテナを使った、より実践的な構築・運用までを効率よく、しかも詳細に学ぶことができます。

Linuxのスキルは、キャリアアップに役立つのか?

Linux にはIT システムのすべての要素が詰まっている

LinuC の学習では、認定取得という目的のみならず、そこに至るまでの学習プロセスを通じて、Linuxを起点にソフトウェア開発はもちろん、ネットワークやプロセス、スレッドといった、ITシステム設計の上で重要な要素をもれなく学ぶことができます。この結果、「仮想化だけでなく、システムの全体設計という視点に立ったソフトウェア開発を理解することにつながる」と評価する、Linux のエキスパート技術者も少なくありません。

クラウド時代は1人のエンジニアに多彩な能力を求めてくる

クラウドの拡がりに合わせて、1人のエンジニアに求められるスキルの領域もどんどん拡がってきています。上でも触れたように、クラウドの開発では、1人の人間がアプリケーションもネットワークも含めて全体を設計し、作り込んでいく必要があるからです。

そうした点でも、システム開発のあらゆる要素を網羅しているLinuxを深く理解することは、エンジニアとしての将来のキャリア形成に大きく貢献することは間違いありません。実際に業界を見渡しても、Linuxに精通した人は何でもできる印象があります。そうしたエンジニアは、システム全体を見渡せる知識と実務経験を持っているため、未知のことがらに出会っても、理論と経験値の合わせ技で新たな解決方法を導き出せるのです。これから仮想化やLinuxを学ぼうと考えている方は、ぜひこうしたオールラウンダーの知識と技術を持ったエンジニアを目指していただきたいと思います。

今回、この方にお話を伺いました!

武井宜行 さん

サイオステクノロジー株式会社

シニアアーキテクト武井 宜行 さん

大学卒業後、ITエンジニアとしてシステム構築・運用保守、自社サービスの企画開発、プロジェクトマネジメントを経験。2007年サイオステクノロジーへ途中入社。認証基盤構築、クラウドインテグレーション、OSSを利用したシステム構築を担当。
一方で情報発信にも従事している。Microsoft MVP for Microsoft Azureとして「最新の技術を楽しくわかりやすく」をモットーにブログ(SIOS Tech.Lab)や動画(サイオステクノロジーエンジニアチャンネル)で情報を発信している。得意分野はクラウドネイティブなアプリケーション開発であり、現在「世界一わかりみの深いクラウドネイティブなアプリ開発 on Azure」という動画を定期的に配信中。


コラム

サイオステクノロジー株式会社 プロフェッショナルサービスチーム

エンジニアの皆さんが迷った時の羅針盤に!/ブログや YouTube で最新テクノロジー情報を発信中

今回、仮想化について解説をしてくださった武井さんがリーダーを務める、サイオステクノロジーのプロフェッショナルサービスチームでは、2022年の重要な活動方針の一つに、「アウトプット&社会貢献」を掲げています。その内容は、「社外への情報発信からコミュニティに還元することで社会貢献を目指す」というものですが、中でも注目なのが、技術ブログ「SIOS Tech.lab」や、YouTubeで公開中の「サイオステクノロジー エンジニア チャネル」です。

これらはクラウドやOSS、認証などに関する、「実際にやってみた系」のコンテンツをメインに、視聴者のエンジニアに最新テクノロジーを楽しく学んでもらおうと、定期的に情報配信を行っているものです。

なお、こうした活発な情報発信の背景には、サイオスグループがここ数年注力している「CSR活動」があります。同社では、SDGsを中心としたサステナビリティプロジェクトチームの発足や、最近ではオーガニック食品販売EC サイトの運営スタート。また森林環境を守るためのイベント活動から地域でのごみ拾いなど、草の根的な活動にも力を入れています。

一方では、義務教育機関や大学を対象にした教育環境向上のための技術支援。リモート学習関連での調査活動や、ディスカッションイベントの開催。さらに2020年には、大手医療系および医療関連の学部を持つ大学への、新型コロナ対策への寄付なども実施するなど、その活動の幅はますます広がっています。「エンジニアの皆さんが道に迷ったときの羅針盤のような存在でありたいとの想いを込めて、当社のエンジニアたちが自分たちの経験や知識をご紹介しています。エンジニアの現場ですぐに役立つ技術情報が満載なので、ぜひ一度アクセスしてみてください!」(武井さん)

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