クラウド利用の留意点
【連載コラム:仮想化技術をしっかり解説します(10)】
クラウドというとセキュリティやコストの面で不安だという意見もありますが、その部分を掘り下げてみたいと思います。
前回は、オンプレミスのクラウド環境について解説しました。今回は、クラウド利用時の留意点について紹介します。
クラウド利用は難しい?
クラウドが利用されるようになってかなり経ち、それほど珍しいものではなくなってきました。それでも、まだまだクラウドを利用するのに躊躇するケースがあるようです。
もちろん、合理的な理由によってクラウドを利用しないのは問題ありませんが、誤解や間違った認識でクラウドを忌避している場合があります。また、クラウドを利用する場合にも考慮が不足している場合もあります。今回はクラウド利用時の留意点について解説します。
クラウドは高い?安い?
クラウド利用でまず最初に検討項目に挙がるのがコストです。これまでにも、クラウドのコストは高いのか安いのかについて議論がされてきましたが、決定的な答えは無いのが実情です。
そもそも、システム全体のコストから見て、インフラ部分が中心のクラウドのコストの比率はシステムによって大きく異なります。
また、運用など人手がかかる部分でコスト削減が行えるのもクラウドのメリットですが、このような見えなくなったコスト削減効果は認識しにくいということが言えます。すべて自前で行うオンプレミスの方が安く見えることも多いですが、運用コストを足すと逆転したり、そもそも適切に運用が行えるのか、という課題もあります。
コストは金額で数値化できるため、比較するための項目として分かりやすいですが、数値化できないメリットデメリットも含めてトータルに判断する必要があるでしょう。
クラウドはセキュリティに不安がある?
システムやデータをクラウド事業者に預けることになるため、クラウドはセキュリティ上の不安がある、ということもクラウド利用を検討する際によく挙がる項目です。これも、どちらがよりセキュアであるか、ということが言えない項目です。
そもそも何をもってセキュリティというのか、またオンプレミスにしたところでセキュアに構築し、運用し続けることができるのか。そして最近のセキュリティはエンド利用者側で起きていることが多いため、システムがクラウドかオンプレミスかにあまり関係がないともいえます。
クラウドのセキュリティを過度に不安視したり、逆に過度に過信したりせず、システム利用の面まで含めてトータルにセキュリティを考慮する必要があります。
クラウドは障害に強い?弱い?
ここ最近、クラウドの障害によってサービスが大規模に停止するケースが散見されるようになりました。影響するユーザーの数が多いため話題になりやすいとも言えます。このようなケースをもって、クラウドは障害に弱い、というのは少し早計に過ぎるように思いますが、クラウドも絶対ではない、ということは頭の片隅に入れておくべきでしょう。
重要なのは、障害が発生した際の対応策、障害が長期間に及んだ場合の代替策を考えておくなど、クラウドの利用の有無に関係なくBCP(Business Continuity Plan・事業継続計画)をきちんと検討、計画しておく必要があります。
また、いくつかの業務で重要なツールは代替手段を用意しておくべきでしょう。コミュニケーションであればメールの他、チャットツールを活用していれば、いずれかで連絡が行えます。ファイルもローカルに複製を作る機能を使うなど、クラウドの利用が単一障害点(SPOF)にならないように心がけるべきでしょう。クラウドも、複数の拠点にシステムを置く冗長化などが行えるので、コストは上がりますが設計構築段階で検討しておくべきでしょう。
クラウドを計画的に利用しよう
クラウドが非常に便利であるため、より気軽にシステムを構築、利用できるようになったメリットがあります。そのようなメリットを享受しつつ、上に挙げたようないくつかの課題を考慮にいれたシステムを設計するのがエンジニアの腕の見せどころといえます。
適材適所でバランス良くクラウドを利用して、良いシステムを構築したいですね。
- 筆者紹介
宮原 徹 氏
Linux標準教科書、Linuxサーバー構築標準教科書などの監修者。LinuCレベル1/レベル2 Version10.0の改訂作業にも協力。また、幅広いOSSに関する情報提供の場として「オープンソースカンファレンス(OSC)」の企画運営も。
バックナンバー
第10回:クラウド利用の留意点
第9回:オンプレミスのクラウド環境
第8回:たくさんあるぞ!クラウドサービス
第7回:クラウド〜仮想化技術の活用系〜
第3回:第3のサーバー環境「コンテナ」
第2回:仮想化の種類と特徴