LPI-Japan 理事長が語る
2020年4月に実施した
LinuC レベル1/レベル2バージョン10.0のリリースとその先
エルピーアイジャパン(LPI-Japan)が、従来のLPICに変わる新しいLinux技術者認定「LinuC(リナック)」を開始してから2年が過ぎた。初期リリースでは、受験予定者の混乱を避けるためにLPICと同じ出題範囲で認定試験を開始したが、2020年4月に当初の方針どおり試験内容を大きく改定した。
今回の改定は、試験内容を現場で必要とされる最新の技術ニーズに対応させることはもちろんのこと、20年来続くLPICの肩書を廃してまで作り上げたLinuCという試験の本質を世に示すという意味合いも持つ。今回の全面的に見直され新しくなったLinuCレベル1/レベル2 バージョン10.0リリースを含めた今後の方向性、さらにLPI-Japanが考えるITエンジニアのためのオープンテクノロジーのキャリアマップについて、2019年7月に新たに就任した鈴木敦夫理事長が語る。
――まず、LinuCを立ち上げた背景からお願いします。
鈴木私たちが2018年4月からLinuCを開始した経緯は、試験の品質問題がきっかけです。
私たちはそれまでLPICに深くかかわってきて、日本において20年近く責任を持ち、努力して試験を作ってきました。ところが、試験問題の漏えいを含む様々な事情で認定試験の品質を保証できなくなり、新たにLinuCを開発しました。初期リリースのLinuCは、できるだけマーケットに混乱が起きないようにするためにLPICと同じ出題範囲とし、今まで認定試験を提供してきた団体として「認定価値の保証」という責任を果たすことを目的としました。
現在までの認定実績データから理解しないまま問題と解答を覚えてもLinuCでは簡単には通用しないことが分かっており、認定試験としての「あるべき姿」にすることが出来たと考えています。
――なぜ今、出題範囲を改定することにしたのでしょうか?
鈴木端的に言えば、ITを取り巻く環境が大きく変わり、求められる人材像も変わってきた、ということがあります。
例えば、クラウド活用が進んだことで、物理サーバーだけでなく仮想環境の基本技術への理解が求められるようになりました。特にパブリッククラウドが使いやすくなってきたことで、技術の本質を理解せず「操作しかできない」エンジニアが生まれて技術の空洞化が進むのではないか、という懸念も強まってきています。
また、サービスの世界でも連携が価値を生む時代になって主要な技術のオープンソース化が進展し、誰もがオープンソースを扱うようになってきています。このようにシステム環境の多様化が進んできたことで、クラウドを含んだシステム全体を見渡せるアーキテクチャの知見が求められています。
この状況に対応するには問題を入れ替えるだけではなく、出題範囲をゼロベースで見直す必要があると判断し、このタイミングで抜本的に実施することにしたのです。
コミュニティのパワーで作られたLinuCバージョン10.0
――コミュニティのパワーで作られた、とのことですが、それはどういうことですか?
鈴木LinuCを実務で役に立つ技術力の証明とするために、実際の現場の方々と一緒に作り上げた、という意味です。LinuCバージョン10.0の試験開発では、パートナー企業や、LPI-Japanアカデミック認定校はもちろん、非常に多くの方々へのヒアリングとアンケートを実施し、今求められている技術スキルや人材像を明確化してきました。それをベースに開発の現場で様々な役割で活躍しているエンジニアや有識者の方々、教育や執筆されている方々と議論を重ね、しっかり内容を検討してきました。
基本的にはネットワーク経由で議論をしたのですが、リアルの会議も7回にも達し、遅い時間まで皆さん熱意を持って議論に参加していただき、本当に感謝しています。
議論の対象は新しく追加するものだけでなく、既存の試験範囲についても多くの時間が割かれ、その結果、今、現場で本当に活躍できる技術力を認定するものが出来たと思います。
――バージョン10.0というナンバリングに込めた意味はありますか?
鈴木LinuCバージョン10.0は、今までの延長ではなく多くの方々からの協力によりゼロベースで見直し、作り上げた認定です。現場重視の認定として新たなスタートを切る、ということで、大きくバージョンをジャンプアップさせてみることにしました。
LinuCはITエンジニアを支える認定へ
――LinuCの認定を持っている意味、はどのように考えていますか?
鈴木ITエンジニアが身につけておくべきベースとなる技術をしっかり習得しているということを証明できる、ということだと考えています。
現在、IT系の教育マーケットではパブリッククラウドの教育が人気です。近年のパブリッククラウドは高機能で使いやすく、ほとんどITインフラを意識しなくても利用できるようになってきています。ですから、最初からある特定の開発元の製品のみを組み合わせたシステムの技術を学んでしまうと、根本的な技術のところは分からず、自分自身の考えも持たずに「決まったものの操作しかできないエンジニア」になってしまうなど、技術が空洞化する恐れがあります。
今回のLinuCの出題範囲を学習し、きちんと仮想化技術を含むITシステムの基礎を理解すれば、パブリッククラウドを勉強したときにも「これはこういうことだ」「ここはこういうことに気をつけなければならない」という勘も働くようになり、理解も早く、深くなります。
このようにLinuCの取得を目標に据えた学習が、さまざまなIT技術を学ぼうとしたときの基礎力や思考力などにつながるようにできたら、と思っています。
――それを形にしたのが「オープンテクノロジーのキャリアマップ」となるのですか?
鈴木「オープンテクノロジーのキャリアマップ」は、ITエンジニアが自分のキャリアを築いていくために有用で、価値ある認定を技術者タイプごとに整理したものです。学習や育成の指針となることを目的に提供しており、今後も多くの方々の声を元に発展させていきたいと考えています。
今回の改定を踏まえて、LinuCは従来のLinux運用管理エンジニアのための試験という位置づけから、Linuxを軸とした全てのITエンジニア全体のための認定になっていくというイメージとしていて、「オープンテクノロジーのキャリアマップ」の中でも成長を支える認定として位置付けています。
例えば、エンタープライズのサーバーサイドのプラットフォームエンジニアとして活躍を目指すなら、LinuCのレベル1/レベル2、OSS-DB(PostgreSQL)、HTML5を取得することを通じてWeb3層についての技術力を持っていることの証明ができます。
このような技術者タイプをいくつも示し、そうなるために必要な技術力の証明となる認定を明示すれば、取得に向けた学習を通じて目指す技術者タイプとして活躍できるだけの技術力が身につくとともに、その技術力を「見える化」することにもなります。
こういうマップがあれば「自分はインフラのこういうエンジニアになりたい」「クラウドのこういうエンジニアになりたい」と思った時に、どういう認定を目指して勉強をしていけばそういった技術が身につくかがわかります。それがエンジニアを高みに導くことにもつながるし、資格を取った人の活躍の場が広がることにもなると確信しています。
――そうしたときに、LinuCのレベル3はどうなるのでしょうか?
鈴木LinuCのレベル1とレベル2は今回出題範囲を改定しましたが、レベル3については今年いっぱいをかけて検討していこうと考えています。
今までのヒアリングと議論を通じて、現在のレベル3のようなスペシャリストが持つ技術を全体アーキテクチャの中で活用でき、非機能要件を満たすシステム全体を設計し構築できる高度技術者を想定しています。
新たな検討メンバーにもお声がけしており、じっくり検討したいと思っています。
LinuCバージョン10.0は2020年4月から
――最後に、4月から受験が可能になるLinuCバージョン10.0について教えてください。
鈴木出題範囲改定後の試験の枠組みは、レベル1からレベル3までという建て付けは変わりませんが、レベル1とレベル2の出題範囲は「バージョン10.0」として刷新されます。従来のサーバーサイドに加えてクラウド領域をカバーする形になります。
今回の改定のポイントは、「クラウドに広げる」「オープンソースを使いこなすのに必要な知識を入れる」「アーキテクチャの要素を入れる」という3つです。
バージョン10.0では全ての出題範囲を見直し、最新技術への入れ替え、使われていない技術の削減、主題・副題の構成変更、試験範囲の説明文の見直しなど、考えられる全てを見直しましたので、納得感のある認定試験となっています。
そのバージョン10.0ですが、4月1日から受験することが可能になります。また、今までのバージョンで101試験に合格をしていて新たなバージョン10.0の102試験に合格してもLinuCレベル1の認定が取得できるようにしてあります。
ぜひ、この新しいLinuCバージョン10.0にご期待ください。