試験開発協力者 特別座談会・前編
Linux技術者認定「LinuCレベル3」の試験開発者が語る
現場で役立つ実践的な知識とスキルをどう反映すべきか———
新しいLinuCレベル3認定試験の注目ポイント(前編)
2025年12月、特定の技術領域のスペシャリスト向けの認定試験「LinuCレベル3」が大幅に改訂されました。従来の「混在環境」「セキュリティ」「仮想化・高可用性」という3つの認定から、「プラットフォームスペシャリスト」「セキュリティスペシャリスト」の2つへと試験体系を刷新。それに合わせて、現代のクラウド/AI時代に求められる技術を追加するなど、より実践的な内容を強化している点が最大の特徴です。
この試験開発には、実際に現場で活躍している30人のエキスパートエンジニアが参画し、平日の業務終了後、あるいは休日に繰り返し議論を重ねてきました。今回は、その中から7名にお集まりいただき、新試験に込められた想いと、大幅に刷新された出題範囲および特徴などについてお話しいただきました。その内容を前・後編の2回に分けて紹介します。
試験開発プロジェクトに参加したきっかけ
----まず、試験開発プロジェクトに参加したきっかけ、および今回担当した分野などをご紹介いただけますか。
星野コムニックの星野です。AI利用推進部門でソリューション提案や社内向け施策の立案・実行を担当しています。プラットフォームスペシャリストの試験開発を担当しました。参加のきっかけは、LinuCシステムアーキテクト(現LinuCレベル4システムアーキテクト)のベータ試験に合格した際にLPI-Japanの試験開発担当者にお誘いいただき、おもしろそうだなと感じたことでした。
LinuCシステムアーキテクトの認定は取ったものの、まだ知らないことはたくさんあります。そこで試験を作る側に身を置くことで、もっと新たな学びが得られるのではないか、同時に自分の持っている知識を世の中の人に共有できないかという両面での期待がありました。
田向富士通の田向です。仕事ではもう20年くらい、Linuxに関わってきました。これまでLinuxカーネルのファイルシステムの保守や、超ミッションクリティカルな顧客のシステム開発などを経験してきて、現在はCDIという、複数のホストサーバー間でPCIeデバイスを動的に付け替える技術の開発をしています。
今回は、プラットフォームスペシャリストの試験開発を中心に担当しました。LPI-Japanとは、同団体がLPICを提供していた時代から付き合いがあり、今回も参加の試験開発にお誘いをいただきました。LinuCの認定試験体系全体を通して見て、より体系的にバランスの取れた試験にしていきたいという気持ちで臨みました。
河原木技術講座の講師、かつLinuCの受験対策本を執筆している河原木です。セキュリティスペシャリストの試験開発を担当しました。実は私、今回の参加にあたっては、お誘いを待たずに自分からLPI-Japanに売り込んでいったんです。というのも、以前、LinuCレベル1、レベル2の試験開発や改訂の時にも関わらせてもらってとても楽しかったし、この作業を通じてLinux業界に貢献できたというやりがいを感じたからです。
それで、LinuCレベル3の改訂の話を聞いたときも、「これは自分がやらなきゃダメでしょ」と(笑)。もう1つ大きな動機としては、LinuCレベル3 303試験の内容がだいぶ時代と合わなくなっていたので、それを直すチャンスだというのもありました。
嵯峨クラウド事業者でソリューションアーキテクトを担当している、嵯峨です。大口の顧客に技術戦略や実装案、ソリューションの実現を技術的に支援する仕事をしています。これまで通信事業者に15年近く在籍していた経歴から、今回の試験開発では、プラットフォームスペシャリストの試験開発で、ネットワークやシステム管理、バックアップ関連を担当しました。
LinuCには2018年のリリース時から関わっていたので、今回もぜひ参加したいと思いました。また、ふだんは会社の一員として仕事をしていますが、この試験開発のようなところでは、自分の名前で実績が残せます。言い換えれば、自分が技術者として何かに貢献できるという、ひとつの証明になる。そこに魅力を感じて参加しています。
大石クラスアクトの大石です。オープンソースの仮想化プラットフォーム「Proxmox」のリセラーとして、顧客の技術支援をしています。今回の試験開発でも、プラットフォームスペシャリストの仮想化部分を担当しました。
参加のきっかけは、The Linux Foundationのイベント「Open Source Summit Japan」に参加した時に、LPI-Japanの方がProxmoxの日本のユーザーグループをご存じで、それを理由にお声がけいただいたことです。もともと当社はLPI-Japanのパートナーであり、自分のキャリアにもつながる機会と思って、喜んで参加させてもらいました。
櫻井NECソリューションイノベータの櫻井です。現在はMicrosoft AzureのSIをメインに活動していますが、過去にはLinuCシステムアーキテクト認定の試験開発に携わった経緯もあり、今回も参加させてもらいました。知見のある技術者が集まって議論する場というのはすごくアクティブで、そこに積極的に身を置くことが自分にはとてもよい刺激になるのです。
試験開発の担当範囲はセキュリティが中心ですが、ふだんの仕事がプロジェクト全体のレビューや上流工程の妥当性チェックを行うアーキテクトの立場なので、今回の試験開発でも全体を俯瞰的に見る役割を任せていただきました。
面サイオステクノロジーの面です。自分のキャリアが一貫してセキュリティ分野だったので、今回もセキュリティスペシャリストの試験開発を担当しました。以前LinuCレベル3 303試験の開発に携わっていたので、「今回も、ぜひお願いします」と私から手を挙げて、メンバーに加えていただきました。
河原木さんも触れていましたが、303試験の開発当時は最新だった技術が、今はかなり古くなり、しばしばSNSなどでも批判の声を見かけていました。かつて問題を作った身としてはやはり悲しくて、ぜひ機会があったらアップデートしたいと考えていたことが、ようやく実現できた気持ちです。
今の時代に合った「最新の技術と内容」へのアップデートを目指す
(ソフトウェア会社/インフラエンジニア)
----今回の試験開発で最も強く意識された点は何でしょうか。
嵯峨ほかの方も触れていましたが、いちばんの課題は、これまでのLinuCレベル3認定試験の問題が古いってことだったと思うんですよ。例えば、仮想化の分野ひとつ取っても、「いまどき、もうXenなんて誰も使ってないよ」って思ってしまう。だから今回の試験開発の最初の議論でも、「この技術、もう古いんじゃない?」とか、「新しい技術として、これを追加しなければいけないんじゃないか」っていう部分が、メイントピックになっていたと思います。
田向LinuCレベル1、レベル2試験については、これまでも基本的なところは、時代に合わせて細かなアップデートが実施されてきました。しかしLinuCレベル3はずっと手つかずのままで、内容が古い、あるいは偏っているという意見もありました。例えば、Sambaなどもそうですね。それを今回の改訂で刷新して、体系的でなおかつバランスのとれたものに作り直したいという思いがありました。
面その意見には私も大いに共感します。従来のLinuCレベル3を開発した当時はSambaも最新の技術であり、Xenと同様に主流として使われていたんですね。まさに、今のクラウドと同じようなイメージです。そういういちばん大事な部分、つまり時代を映すテクノロジーやソリューションを、現在の環境に合わせて最新の状態にアップデートしようと、参加された皆さんも意気込んでいたと思います。
主要な製品の「使い方」ではなく、背後にある基本的な技術を深掘り
----新しい技術にアップデートするにあたっては、どのような点に苦労されましたか。
大石最も重要なテーマの1つに、仮想化があります。現在、仮想化の領域は業界再編が進行中で、大手企業の買収など地殻変動が続いています。その中で、Proxmox全体としては20年、仮想化プラットフォームであるProxmox Virtual Environmentは17年の歴史がありますが、この数年間で大きく注目されるようになりました。
当然、これは当社としてはうれしい変化なんですが、だからといって今回の試験開発では、逆に私はProxmoxを前に出してはいけないと考えました。というのも、むしろその背後にあるKVMとか仮想化の技術といった、基本的かつ汎用的な技術に寄せていかないと、応用が利かない試験内容になってしまうからです。
なので、Proxmoxの名前は試験項目の表題にあるけれど、その使い方ばかりになってはいけない。その「どこまで出すか、出さないか」のさじ加減を、常に考えながら取り組んでいました。
田向そこは、私も同じですね。最初から特定の製品を想定して問題を作ると、知識がブラックボックスになってしまいがちです。そうならないように、製品自体よりも、その中で使われている内部の技術、例えばKVMとかQEMUとか、そういうLinuxの基本になるものを選び、なおかつ体系的に組み込んでいく点に留意しました。
もし、これがエンドユーザーであれば、製品の使い方がわかれば十分です。しかしLinuCレベル3認定試験の受験者はエンジニアなのですから、内部の構造や挙動までも確実に理解し、説明できる知識を身につけてもらえる設問内容を心がけました。
問題作成にあたっては、「実務に使える内容」を強く意識
----実際の問題作成で工夫された部分を、いくつか具体的な例を挙げて教えていただけますか。
星野コマンドの暗記で終わらせない、すなわち丸暗記ではなく、実務で使える知識を問うということを意識していました。例えば、負荷分散をする際のロードバランサーです。同じような機能を持っていたとしても、実務で使うときの使われ方というのは製品によって違ってきます。そのあたりをきちんと押さえて、「こういう製品は、こういう目的の時に、こうやって使う」といった実用性は、問題作成において強く意識しました。
櫻井問題が完成してベータ試験実施の時点で全体を総括してみたところ、いわゆる「考えさせる問題」が非常に多く盛り込まれていました。それも、かなり実務に即した出題が多くて、私たちとしてはねらい通りの改訂でしたが、受験者は皆さん苦労していましたね。例えば、出力されたログの原因を考えるトラブルシューティングだとか、ある要件のもとに、こういうことをしたい場合、複数の選択肢のどれが適切かといった、自分の頭を使って考える問題がかなりありました。
例えば、クラウドにおいて、ネットワーク制御をするPaaSがある要求や予算的な理由により利用できなくなった。このような現実にあり得るシーンで、例えばNginxの機能を応用して要件を満たす実装ができるようになるといった、本当に実務で使える知識が身につく試験であると自負しています。
河原木今回は内容を新しくするということが何より重要でしたが、その反面、絶対にこれは守っていきたいと思っていた部分もあったんです。というのは、従来のLinuCレベル3 303試験は、構成自体は非常によくできていたんですね。具体的には、各章ごとに実機を触りながら学習できる流れがしっかりと作られている。「単なる暗記もの」に陥らない本質的な良さを今回の改訂でも残せたのは、とてもよかったと思っています。
セキュリティ分野では、体系化と技術トレンドへの対応に注力
----現在の注目領域の1つであるセキュリティ分野では、今回の改訂でどのような変化があったのでしょうか。
面旧版のLinuCレベル3認定試験を開発した当時は、CISベンチマークのような標準化されたガイドラインが、まだ世の中に浸透していなかったんです。だからセキュリティと言っても、漠然と「OSの、ここを強化しよう」とか「ファイアウォールをつけよう」とかで、体系だったメソッドも存在しなかった。
それを踏まえて今回の改訂では、セキュリティを体系立てて、きちんと背骨となる考え方を1本通して、可能な限り「ここと、ここと、ここは大事だ!」と明確に示せるように作り変えようと。幸い現在は、体系だったセキュリティの規約や規定が確立されているので、そこに準拠する形で問題作成も進めていきました。
----技術の変遷だけでなく、セキュリティに対する考え方の変遷も含めた、かなり大がかりな改訂作業だったということですね。
面大枠は、そうですね。もちろん今回はLinuxという枠があるので、そうした考え方や規定・規約の中で、Linuxのエンジニアとして、これは知っとかなきゃいけないという部分に重点を置いています。
またひと昔前に比べてLinuxは、大きく活用の範囲が広がっていますよね。当然セキュリティも、いろいろな領域、例えば車載とか組み込みソフトウェアといったところでも使われるようになってきている。SELinuxを用いたアクセス制御が、車載でも使われたりしています。なので問題作成では、そうした部分も取り込んで、セキュリティの範囲を広げたのが、ちょっと自慢っていうか、今回特に力を入れたところです。